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第5話 異世界転生したんだって

last update Last Updated: 2025-03-11 20:07:23

 魔力やスキルでわけが分からなくなってしまったが、俺はもう一つ心配があった。

 それは、俺が一体どうして船に乗っていたのか思い出せないことだ。

 ステータスでは俺は十五歳の森の民であるらしい。

 しかしそう言われても実感がない。

 正直俺は、自分がもっと大人のつもりでいた。二十代とか、何なら三十歳くらいのだ。

 それに時折自然に脳みそを流れていく、変な言葉や記憶たち。

 某国民的RPGやら、底辺高校のヤンキーやら、バトル漫画やら。

 俺にとってはこれらの方がよほど馴染みがあって、今の自分は突然どこか別の場所に放り込まれたようにすら感じる。

「異世界転生……?」

 スキルやらステータスやらがある以上、ここは俺が本来いた場所ではない。そう確信がある。

 ならばここは別の世界で、俺自身も前の俺ではない。

 それこそゲームやアニメで聞いたことのある、別の世界に生まれ変わる――異世界転生をしてしまったと考えるとしっくり来た。

 船が沈没したショックで前世の記憶を思い出したってとこか。

 思い出した引き換えに今までの十五歳分の記憶が消えてしまったのが痛いが、今さらどうにもならん。

「いやあ、どうするかなぁ……」

 俺は心の底からのため息をついた。

 異世界転生したらしいと分かっても、事態は何も変わりはしない。

 俺の両手は呪われた剣と盾が張り付いており、ステータスはほぼオール1で、頼れる人は誰もいない。

 何もかもが絶望的だ。

 けれども俺は死ぬのは嫌だった。

 というか、こんなわけの分からん状態でわけの分からんままで死ぬとか、誰だって嫌に決まっている。

 船の難破も、ルードみたいな性格クソ悪野郎に生肉食わせられたのも、理不尽な目に遭うのはもうコリゴリだ。

 死んでたまるか。

 生き延びてやる。

 俺の願いは生きること……!

 これからこの世界で、きっちり生ききってやるんだ! 他でもない、俺自身の力で!!

 そう決めたら、腹の底から力が湧いてきた。

 そうだ、このままじゃいられない。やられっぱなしでいられるか!

「町に行ってみよう」

 このまま洞窟でこうしていても、ただ時が流れるだけだ。

 町に行けばスキルが習えるかもしれない。そうしたら呪いも解ける。

 生きていくのに必要だった。

「腹が減ったな」

 これから長時間の移動をするのだ。余裕のあるうちに飯を食っておこう。

 俺は袋から堅パンを取り出して、固さに苦労しながら食べた。飲み物がなかったので、赤いポーションで流し込む。ちょうどよく減っていた体力が回復してくれた。

「よし、行くぞ!」

 焚き火に灰をかぶせて消す。

 立ち上がった俺は袋を担いで、洞窟の外へ出た。

 洞窟の外は木立の中だった。

 空を見上げれば、太陽はまだ高い位置にある。これから移動するにはいい時間だろう。

 ニアは西に海岸があると言っていた。

 西はどっちだろうか?

 俺の前世知識(?)が通用するならば、太陽の位置から見て西は洞窟の左手になる。

 この世界の太陽の運行が前の世界と違っていたらお手上げだが、とりあえず信じて歩くことにした。

 少し歩けば木立はすぐに途切れて、行く手に海が見えてくる。予想は外れていなかったようだ。

 海岸線の砂浜に到達したあたりで南下する。一応、歩数を数えながら歩く。

 七千歩ほど――つまり一時間半少々――歩くと、行く手に町が見えてきた。

「やった! 町だ! ……ゲボッ」

 思わず歓声を上げた俺は、横っ腹に衝撃を受けて間の抜けた声を上げた。

 何事かとそちらを見れば、憎っくき最弱魔物のグミが二匹、ぽよんぽよんと跳ねている。

 歩くのと町の発見に夢中になるあまり、不意打ちを許してしまった。

 だが、こんな見晴らしのいい場所で不意打ちとか、どういうことだ。

 と思ったら、よく見れば魔物どもは海岸の砂浜の砂に埋まって獲物を待ち構えていたらしい。

 グミがさらに二匹、砂の中から飛び出すように現れた。しかもそのうち一匹は色違い(赤)で、手ごわそうな感じがする。

 合計四匹、戦って勝てるか?

 ……三匹相手でも死にかけたんだ、勝てないに決まってるだろ!

 ここは逃げの一手だ。

 けれども運の悪いことに、グミどもは町の方向に陣取っていた。つまり町に逃げ込むのは難しい。

 俺は素早く周囲を見渡した。

 周りは何もない砂浜が広がっている。

 洞窟のときのように一対一の状況は作れない。

 しかも砂の中にまた別のグミが潜んでいるかもしれない。それを察知するすべはない。

「あそこまで行けば!」

 海と反対、東の方向はぱらぱらと木が立っている。

 俺はその木の一本に向かって猛ダッシュした。

 グミたちはぽんぽん跳ねながら追いかけてくる。

 木は近づいてみると松の木に似ていた。ちょうどいい、枝が曲がっていて登りやすい!

 必死の思いで木に登る。

 両手にいまいましい剣と盾が張り付いているので、とても登りにくかった。

 それでも追いつかれる前に枝に登れた。

 上に上がってしまえば案の定、グミどもは下から見上げてくるだけだった。

 あいつら手足はないからな。木登りなんぞできねえだろ。

 だがグミたちは諦め悪く地面をウロウロしている。立ち去る様子はない。

 このままじゃ俺も立ち往生してしまう。最悪、木の上で餓死だ。

 どうしたらいい?

 俺は何か使えるものはないかと、担いできた袋をもう一度漁ってみた。

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     断ろうと思ったが、その子供と目が合ってしまった。 年齢にそぐわない全てを諦めきったような目。ろくに食事をもらっていないと分かる、ガリガリの体。 髪の色は金髪だと思うんだが、薄汚れてぱさぱさなのでよく分からない有り様だった。 今日買った三人の奴隷は、拠点で生産しながら店番をしてもらう予定だ。 ダンジョンに連れて行くつもりはないので、危険はない。 それなら――「分かった。その子も買うよ」「毎度あり!」 奴隷商人のホクホクした顔がムカつくが、俺は黙って代金を支払った。 四人合わせて金貨六枚なり。 全財産の金貨二十二枚から出して、残りは十六枚。まだ大丈夫。 魔法契約で俺を主人に設定する。 農業スキル持ちのササナ人はイザク。 錬金術スキルの女性はレナ。 宝石加工のじいさんはバド。 少年はエミルという名前だった。「みんな、これからよろしくな」 声をかけても反応が鈍い。 エリーゼがとりなすように言った。「皆さん、ご主人様は優しい方です。どうか安心して仕事に励んでくださいね」 同じ奴隷のエリーゼの言葉は、少しは響いたようだ。 彼らはもそもそと挨拶をしてくれた。「反抗的な態度を取ったら、容赦なく鞭打ちをおすすめします。鞭も売っていますよ。銀貨二枚」 奴隷商人がそんなことを言っているが、無視だ無視。 俺は奴隷たちを引き連れて、市場を出た。 夜になるまでまだ間があったので、服屋に行って奴隷たちの服を買った。 奴隷制は嫌いだが、必要以上に甘やかすつもりはない。 これからしっかり働いてもらわないとな。 でも、不潔でボロボロの服は良くないだろ。 一年前までボロばっかり着ていた俺が言うんだ、間違いない。 次に宿屋の部屋を取った。 そこで桶と湯を借りて、それぞれ体を洗わせた。不潔は病気の元だからな。 さっぱりした奴隷たちに新しい服を着せる。 これ

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     その奴隷を見てみると、浅黒い肌に大柄な体をしていた。骨太な体格だが今は痩せてしまっている。 パルティア人とちょっと毛色の違う感じがする。経歴書には「ササナ人」とある。 ササナ国は確か、パルティアの南にある小国だったな。 確かに農業スキル持ちの割に、お値段が安い。 農業は農奴として人気のスキル。普通ならば引く手あまたのはずだ。この値段では買えないと思う。 反抗的ということで割引中なのだろう。 あるいは、態度が良くなくてどこかの農園を追い出されたとか?「反抗的でも別にいいよ。仕事だけきちんとやってもらえれば、文句はない」 俺が言うと、ササナ人奴隷はちょっと目を見開いた。 まあ、仕事をサボってばかりだとか他の奴隷たちを虐めるだとか、問題行動があまりにひどかったらその時に対応を考えよう。 彼をキープしてもらって、次の人の吟味に入る。 生産スキルはたくさんがあるが、特に欲しいのは鍛冶と錬金術、宝石加工だ。 鍛冶は武具を作るスキル。 良い武具はダンジョン攻略の要だからな。 武具は店売りのものでは性能が物足りない。かといってダンジョンでドロップを狙うのはあまりに運任せすぎる。 ある程度の性能を狙っていく場合、鍛冶スキルは必須になるだろう。 で、錬金術はポーションを作るスキル。 混乱やマヒのデバフ系ポーション、それに回復系のポーションはダンジョン攻略に必須である。 宝石加工は護符やアクセサリーを作る。これも武具に準じる装備品だ。 しかも壊れやすいので半消耗品でもある。しっかり確保したい。 次点で魔法書製作。 魔法書は魔法屋で買うかダンジョンで拾うかしか入手経路がない。 で、魔法屋の品揃えもそのときによってまちまちなのだ。 安定してよく使う魔法の魔法書が手に入るなら助かる。 ただ、俺の得意とする魔法は初歩のマジックアローや戦歌、光の盾など。 これらは店でもダンジョンでも比較的入手

  • 転生したら最弱でした。理不尽から成り上がるサバイバル   第54話 新しい仲間

     そうして向かった奴隷市場は、相変わらず胸くそ悪い場所だった。 やっぱり俺は奴隷制が嫌いだよ。 だいたい、どうして人間を道具としてお金で売買するのが許されるのか。 この世界、この国は理不尽が多いが、奴隷制度はその最たるものだと思う。 鎖に繋がれ、手かせをはめられた奴隷たちが狭い檻に押し込められている。 向こうではオークションをやっているらしく、台の上に立った奴隷たちが自分の名前と特技を書いた札を持っていた。 オークションを後ろの方から見ていたら、奴隷商人に話しかけられた。 愛想のいい笑顔を浮かべているが、同時に警戒心も見て取れる。 エリーゼを買ったのはならず者の町だった。 あそこじゃ盗賊ギルドのバルトが付き添いに来てくれたおかげで、待遇が良かった。 俺はここじゃ見慣れない顔だろうからな。「お客さん、見ない顔ですね。今日はどんな商品をお探しで?」 人間を商品と言ってはばからない。俺はイラッとしたが表には出さずに言った。「生産スキルが得意な人を探している。戦闘はできなくてかまわない」「それでしたら……」 奴隷商人はオークションから離れて、建物の一つに俺たちを招き入れた。 何人かの奴隷が引き出されてくる。 比較的若い人からお年寄りまで、さまざまだった。 そうして紹介された奴隷は確かに生産スキルを持っていた。 いつぞやのならず者の町の奴隷商人よりも優秀だな。あいつ話聞いてなかったからな。「エリーゼ。どの人がいいと思う?」 エリーゼに聞くと、その場にいた全員が意外そうな顔をした。 え、なに?「お客様はわざわざ奴隷に意見を聞くのですか。これはお優しい」 奴隷商人が嫌味な口調で言う。 そういうことかよ。俺は言い返した。「これから買う奴隷は彼女の仕事仲間になるんだ。相性も大事だろ」 本当は奴隷だって人間だ、お金で売り買いするなど間違っていると言いた

  • 転生したら最弱でした。理不尽から成り上がるサバイバル   第53話 出店計画

     おっさんの言葉に俺は頭を巡らせた。 店を出す場所はよく考える必要がある。  まず、町の中はあまり良くない。すでに別の店があって競合してしまうから。 既にある店のほうが経営や仕入れのノウハウが豊富だろう。固定客もいるだろうし。 素人の俺がいきなり参入しても不利になってしまうと思う。 じゃあ店を出すなら町の外か。  街道沿いで人の多い場所や、ダンジョンがよく生まれる地域で冒険者相手に商売するのが良さそうだ。 もちろん、いい場所は既に店が出ている。だが現役冒険者である俺の視点から見れば、まだまだ穴場があるはずだ。「分かった。ありがとう」「おうよ。店をやるのか?」「まだ計画段階だけどね」 そんな話をして、俺は冒険者ギルドを出た。「どうでしたか?」 外で待機していたエリーゼが尋ねてくる。「王都で出店の許可をもらえるんだってさ。場所を考えながら王都まで行こうか」 王都にはこの国で一番大きな奴隷市場もある。人材の調達はそこですればいい。  この一年で配達やダンジョン探しをしてあちこち歩き回ったおかげで、この国の地理はだいたい把握している。  店を出すのにいい場所も、いくつか目星がついていた。 王都までの道すがら、手頃なダンジョンがあったのでいくつか攻略した。  寄り道をしたせいで少し時間を食ってしまい、王都に到着する頃には季節は初夏になっていた。 せっかくここまで来たので、直近の税金を納めておく。もう脱税騒ぎはごめんだからな。  今度はヴァリスに呼び出されることもない。  お役所に行って新規出店について案内を聞いた。  担当のお兄さんが言う。「店を出すには許可証が必要です。こちらの申請用紙に記入の上、お金を添付してください。金貨三枚です」「なかなかお高いですね」 金貨一枚あれば、一人暮

  • 転生したら最弱でした。理不尽から成り上がるサバイバル   第52話 生産スキル

    「違う違う、エリーゼが嫌いという意味じゃない! 奴隷制度そのものに反対ってことだよ。だってお金で人を売ったり買ったりするなんて間違っている。エリーゼだって子供の頃は開拓村の自由民だったんだよな。それが奴隷になってしまって、嫌だっただろう」「わたしが奴隷になったのは、親に売られたからです。わたしを売ったお金で家族は冬を生き延びました。仕方ないことです」 いきなりヘビィな話が飛び出した。 分かってはいたが、この世界で日本の常識も良心も通じやしない。 けれど割り切るのは嫌なんだ。 前世の話をして理解してもらえるわけはないので、説明に苦労した。 けれどエリーゼを嫌っているわけではないこと、奴隷制度そのものに疑問を持っていることは分かってくれたらしい。「ご主人様は優しいですね」 と微笑まれてしまった。「けど、この国に奴隷制があるのはどうしようもないですよ。だったら奴隷を買って、わたしみたいに優しくしてあげて、生きる力を育ててあげてください」 この国の人間で今なお奴隷身分の彼女の言葉には、説得力がある。「……分かった。ただ、養う人数が増えればお金や食べ物の問題も出る。少し考えさせてくれ」「はい」 エリーゼの言葉で、俺は業務拡大(?)の決心をした。 今の俺の実力は、上級冒険者といって差し支えない。 中堅クラスのダンジョン攻略は問題なく進めて、ボスから得た装備品も充実した。 クマ吾郎といっしょに効率よく戦闘を繰り返したため、短期間で強くなれたのだ。 当然実入りも良くなって、貯金はかなり増えた。 だが、何人もの奴隷を買って彼らを養うとなったらどうだろう。 生活費を稼ぐためにカツカツになってしまっては意味がない。 奴隷の皆さんにしっかり働いてもらって、さらに利益を上げなければ。 そのためにはどんな人材を買って、どんな仕事を割り当てるか熟考の必要があ

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